翌日夕暮れ時、俺は市街地を歩いていた。

実は朝、その情報屋に連絡を入れたのだが、どうも向こうが忙しいらしく(いつも見るあいつの状況からは考えられないが)結局夜に、いつもの所で落ち合うことになったのだ。

「しっかし・・・あいつ、いつも何で生計立ててるのか?・・・どうも想像出来んな」

そんな事を言いながらしばらく歩いていると、目的の場所に着いた。

そこは裏通りにひっそりと建つバー、名を『SEVEN NIGHT(七夜)』

最初待ち合わせ場所としてここを指定された時、俺は一瞬目を疑ったものだった。

そこのドアを開けると、この店にぴったりあったジャズのレコーダーが心地よく俺の耳に浸透する。

そして、いつもの隅のカウンター席には二杯の水割りのグラスと一緒に見慣れたオレンジ色の頭が座っている。

「・・・よう、待たせたな、有彦」

「おう、遠野」

俺の姿を確認した男・・・乾有彦は高校時代と変わらぬ笑みを俺に見せながら自分の分のグラスを掲げていた。







比較的進学校と呼ばれたうちの高校で就職する人間は極々稀である。

そういう点では俺と有彦はきわめて特殊な類に属し尚且つ職種も似たり寄ったりであった。

俺が、七夜を継ぎ退魔士となったのに対してこいつは私立探偵兼裏の情報屋となり、取るに足らない些細なものから、中には埋葬機関や魔術協会の中でも手に入らないトップシークレットの情報を易々と入手してそれを売買している。

「しかし・・・珍しいんじゃないのか?遠野。お前が『直ぐに会いたい』なんて抜かすなんて」

こいつには詳しい事は教えていないが、俺が遠野から七夜に性を変えている事は既に教えている。

しかし、「昔の呼び方の方が俺にゃあ性にあっている」と言って遠野のままで呼んでいる。

「まあな・・・・ちょっと急ぎの仕事を頼みたかったからな」

「なるほどな・・・で、今回はどっちの人格を?」

「そうだな・・・どちらかと言えばハイドの方だが・・・今回はそんな深い昏睡とかじゃない」

これは俺達の間で交わした簡単な暗号だ。

元は『ジキル博士とハイド氏』から取ったもので、『人格』はどちらの顔の仕事を欲するのか?『ジキル』と言えば表の探偵業で、『ハイド』と言えば裏の情報屋を。

さらに『深い昏睡』は情報の重要性をさす。

「で、今回は一体何を調べるんだ?」

「ああ、怪奇現象を調べてもらいたい」

「はあ?怪奇現象?なんだそりゃ?」

「実はな、世界各地で発生している怪奇現象の中でも、テレビやメディアですらも手を付けないような、本当に危険なものを調べて欲しいんだよ」

「まあ、そりゃ別に構わんが・・・どうしたんだお前?遂に今の仕事をドロップアウトして、三流のオカルトライターになるのか?」

「何、世迷言をほざいているんだお前は。そんな訳無いだろう。ただ今回の仕事でそれが必要なだけだよ」

「なるほどな・・・わかった。少し時間が掛かると思うが・・・」

「ひとまず、何かわかった事が有ったらすぐに連絡をくれ。それとこれはいつもの事だが」

「深く調べるな・・・だろ?遠野」

「ああ、特に今回のはな」

「了解」

「それとこれが今回の報酬。小切手で悪いけど」

「まあいいさ・・・おい、随分な金額だがお前懐大丈夫か?」

「ああ、心配要らない。俺の仕事の報酬の一部だから」

「まあ・・・くれるって言うならありがたく貰うけどよ・・・今月ピンチだったからな」

「ああ、それとこいつが調査費用、足りない様だったら言ってくれ。可能な限り融通利かすから」

「心配するな。俺もプロだ。これで釣りが来る位浮かせてやるさ」

「そうか、まあ期待しているぜ」

そう言うと俺達二人は氷も解けつつある水割りで軽く乾杯した。

これが仕事話の終わりの合図で、その後はいつもの如く世間話に突入した。

「へぇ〜高田君結婚するって?」

「いや結婚と言うよりも婚約だな。ひとまず大学卒業したら同時に結婚だってよ」

「そうか・・・そう言えば俺とお前は就職しているけど大学生はあと二年あるんだよな」

「あと大学院なんてものもあるしな。しっかし、大学行く奴の気が知れねえな。わざわざ高い金払ってわざわざ四年も学校行くなんてな」

「はは、それについては俺も同感」

「そんでだ遠野君。君はどうなのかね?」

「は?俺?」

有彦が俺にそんな話を振ったのは大分酒も入った(むろん有彦の方。俺は最初の水割りをちびちびやりながらつまみを食べている)時だった。

「そうだよ、高校時代『ガールハンター』と呼ばれたお前はどうなの?」

「こらお前、何人聞きの悪いこと抜かしている」

「はははっ、まあそう隠すな隠すな遠野。もはや赤の他人となった秋葉ちゃんによく校門前で口喧嘩をしていたシエル先輩に金髪のお姉さん、おまけに屋敷じゃあ琥珀ちゃんに翡翠ちゃんと言うかわいいメイドさんに囲まれている遠野がよく言うよ」

「だからなあお前・・・はあ・・・まあ事実だしな」

「で、お前はどうなの?これはっ!!っていう子が居るのか?」

「・・・」

そう有彦に言われ改めて考えた。

無論、皆の気持ちには気付いている。

皆の思いに報いてやりたいとも思う。

しかしそれ以上に俺は皆に対してある種の負い目を感じていた。

それは皆が持つ俺への感情を、俺はただ単に利用し己の欲望の充足としてしか見ているだけではないかと言う疑念・・・

俺は皆が思うほど強くもない。

今のこの状態だって、ただ惰性に流されて幸運にも築きあげられたもの。

何時でも崩壊する危険も孕んでいる。

俺は彼女達に何をしてやれるのだろうか?

何を残せられるのだろうか?

もう・・・残り少ない・・・こんな俺が・・・何を・・・

「おい・・・遠野??」

「!!・・・ん・・・ああ、悪いな有彦。少し考え事しちまった」

「そうか・・・まあ、そんな深く考え込むな遠野。お前が今の状態から変わる事を誰も望んじゃあ居ないはずだからな」

「・・・ああ、そうだな・・・悪かったな。余計な気を使わせちまって」

「いいって事よ。お前の世話を焼く事にもう慣れちまったからな、もうここまでくりゃあ腐れ縁も地球滅亡まで絶対に断ち切れねえだろうな」

「違いない」

そう言うと俺は静かに、有彦は豪快に笑い飛ばすと静かに立ち上がり、清算に向かう。

「取り敢えず今回は俺持ちな」

「いいのか?」

「あんだけ報酬やら調査費用をポンと出してくれたおめえに会計までさせられるか」

そういいながら有彦は二人分の清算を終えると先に店に出ていた俺に向かって、

「そんじゃあ俺は早速二・三ピックアップしてみる。早くて五日位で最初の連絡が取れると思うからそん時までな」

「ああ、じゃあな」

そう言ってお互い別れた。







有彦と別れた後、俺の足は自然と公園に向かっていた。

ここには苦い思い出が多過ぎるにも、かかわらずだ。

何故ここに来たのか分からなかった。

それこそ夢遊病者の様に彷徨ったのだろうか? 

どちらにしてもここに長居はしたくない。

俺が公園を後にしようとした時、気配を感じた。

(??誰かが戦っている?)

俺がそう理解するとナイフを取り出し気配のする方角に走った。

しかし・・・そこには・・・

「はあ・・・はあ・・・誰も・・・いない??」

そこには戦闘どころか、人っ子一人たりとも存在などしていなかった。

・・・そう人は・・・一人たりとも居なかった・・・

良く眼を凝らしてみると、奇妙な人の輪郭同士が戦っていた。

服装は分からない。

しかし一方は何か細長いものを両手に持ち、もう一方は徒手空拳で戦っている・・・いや、唐突に徒手空拳の方が何かを飛ばした。

それを左手に持つ細長い何かで弾き飛ばし、懐に入り込むと右手のそれを横薙ぎに振るった。

しかし、それを容易く交わすと、たちまち反撃に打って出る。

双方とも互いの攻撃を流し・かわし・時には受け止める。

それらの攻防を目まぐるしい速さで続けていく。

それを俺は半ば呆然とただ見送っていた。

しかし、遂に決着が訪れた。

双方とも、距離を縮めると、一方は手に持つ得物でもう一方は手刀で相手の胸元を貫いた。

しかし、その瞬間、

「ぐっ!!!!」

唐突に胸元に激痛が走った。

(ここって・・・あの傷のある場所じゃあ・・・)

一瞬そんなことを考えたがそれも直ぐに消えた。

それこそ立っていられない位の激痛に俺は思わず蹲り、直ぐに俺の意識は闇に堕ちていった。







「はっ!!」

気づいた時、俺は、蹲った体勢で何をしているのかわからなかった。

しかし直ぐに気を失う直前の事を思い出すと、直ぐに立ち上がった。

時間にして十分くらい気を失ったのだろうか?

もう胸の激痛は消えていた。

辺りを見回しても、もう不審な気配など微塵も感じられない。

「あれは・・・夢だったのか?それにしては現実味がありすぎる・・・」

何より夢で気絶するほどの激痛を感じるはずが無い。

釈然としないものを感じながらも俺はこの場を離れた。







「ただいま」

「兄様お帰りなさい」

「志貴様お帰りなさいませ」

「ああ、沙貴に翡翠」

「ご予定の時間よりも遅かったようですが」

「ごめん、情報屋と今回の事で話す内に時間がかかっちゃってな・・・」

「そうですか・・・ですが秋葉さん・・・」

「沙貴さん」

「あっすみません。秋葉様がかなりお怒り気味ですよ、兄様」

「あれっ?そんなに遅くなっちまったのか?」

「もう、消灯時刻寸前です」

「あれ?時間には余裕を持っていたのに・・・」

おれは首を傾げながら、着ていたコートを脱いで翡翠に渡そうとした。

しかし、その瞬間

「!!!し、し、ししししし・・・・きゃあああああああああ!!!」

コートを受け取ろうとした翡翠が悲鳴をあげて床に倒れてしまった。

「翡翠!!沙貴、直ぐに翡翠をベットに寝かせて!!」

「はいっ!!!」

俺の言葉に頷くと、沙貴は気を失った翡翠を抱き上げると翡翠の部屋に駆けていった。

それと入れ違いで、秋葉達がやって来た。

「兄さん!!どうしたんですか!!」

「翡翠さんからすごい悲鳴が上がりましたけど」

「わからない・・・俺がコートを渡そうと脱いだ途端・・・」

そういいながら俺が皆に体を向けた瞬間

「志貴!!!どうしたのよこれは!!!」

「し、志貴さん!!!!」

アルクェイドと琥珀さんがそろって俺を・・・いや正確には俺の胸元を指差して絶句している。

見ると全員俺の胸元を見て凍り付いている。

「??だから皆いったい何が・・・」

と言いながら俺も自分の胸元を見下ろした瞬間、俺も絶句した。

俺の胸元・・・あの傷跡の部分が血塗れとなっていた。

しかも、すっかり乾いているようだ、もうどす黒く変色している。

「な、なななななな・・・」

おれは声も出ず、慌てて服を脱ぎ捨てた。

だが予想に反して、「あれ・・・怪我は無い・・・」

俺はどこも出血などしていなかったし、服以外は血で汚れていなかった。

しかし、服はおろかシャツまでも血で濡れ、その部分は、血で固まったのかぴったりとくっついている。

そこに

「志貴様!!!!」

意識を取り戻したのか翡翠がこちらに駆け出してきて、その後ろからは翡翠から話を聞いたのだろう、沙貴が救急箱を持って必死で走ってくる。

「志貴様!!お怪我は!!」

「兄様!!!翡翠さんから・・・あれ?」

「ああ・・・翡翠に沙貴、ごめんな心配かけて」

俺が翡翠達に向き合うと沙貴は

「!!!!」

絶句して俺の胸の傷跡を見ている。

「??ああ、そういえば沙貴には何も言っていなかったな・・・こいつは」

と、俺は沙貴がこの胸の傷に驚いていると思い説明しようとした時沙貴は思わぬ事を口にしていた。

「・・・兄様・・・やはりその傷は消えないのですね・・・」

「ああ、何しろ死に掛けたからな・・・多分一生消えないだろうな・・・へっ?」

「沙貴!貴女なんで兄さんの傷を知っているのです!!」

「えっ?皆様兄様のこの傷の由来をご存知なのですか?」

「当然よ!!」

「沙貴さん、志貴様のこの傷は秋葉様をお庇いになられて出来た傷です」

「ああ、それで俺は『直死の魔眼』に目覚めたんだが」

「・・・兄様、本当に何も覚えていられないのですか?」

「??何がだ?」

「その胸の傷は・・・兄様がお生まれになられた時からついていたものです

沙貴の言葉を全員呆気に取られて聞いていた。

いち早く反応したのは当然の事だが秋葉だった。

「沙貴、貴女私と兄さんの絆の証を否定する訳?」

秋葉はそう静かに言いながらも全身に怒りの気配を漂わせて沙貴に詰め寄る。

「いえ、そうではありません。兄様が秋葉様をお庇いなされたと言う事は信じております。ですが、あの傷跡は間違い無く兄様がお生まれになられた時からついていたものです」

「なあ、沙貴」

「はい兄様」

「詳しく教えてくれないか?」

「はい・・・ただ私もこの事は兄様のお父様・・・黄理様から聞いた事ですので詳しくは・・・」

「構わない。父さんからどんな話を聞いたのか俺にも聞かせてくれ。」

「はい・・・これは私が里から出される直前に聞かされたものです・・・」

「里から・・・じゃあ、七夜が遠野に滅ぼされる直前のことか・・・」

「はい・・・」







私がちょうど母様の朝餉を食べている時に黄理様が私の小屋を訪れたのです。

「邪魔する『忌み児』・・・いや、沙貴だったな・・・」

「??あっ、お兄ちゃんの・・・」

「ああ」

そう言われると、黄理様は私の前に座られると、静かに語りだしたのです。

「沙貴・・・お前、志貴が好きか?」

「うん!!!私、志貴お兄ちゃん大好き!!」

「そうか・・・ではお前のその忌み嫌われし力で志貴を守りたいと思うか?」

「・・・私この力は嫌い・・・でも、お兄ちゃんの為だったら私この力でも何でも使うの!」

「そうか・・・ではお前が遠き未来志貴の奴に聞かせる機会があれば聞かせてやってくれ・・・」

「??」

「あの子の胸についた傷跡は知っているな?」

「うん・・・すごく痛そうだった・・・」

「あれはあの子が生まれた時からついていたもの・・・そして、七夜の業を一身に背負った証・・・」

「??黄理小父様?」

「七夜にはある言い伝えがあってな・・・胸に大きな傷跡を持った赤子が生まれた時、そしてその赤子は生まれながらにして全てを支配する力を持つと言う・・・

「?どう言う事なの?」

「沙貴、お前がもしこの事を覚え、志貴と再び巡り会う機会があるのなら志貴に今の話を聞かせてやってくれ・・・そしてこうも伝えてくれ、『お前が決して一人ではない』とな・・・」

「大丈夫!私覚えが良いもん!それに私お兄ちゃんから絶対に離れない!!!私お兄ちゃんのお嫁さんになるもん!!」

「・・・そうか・・・」







「父さんがそんな事を・・・」

「はい・・・本来でしたら最初に再会した際に申し上げるべきでしたが、兄様にお会い出来た嬉しさで今まで忘れておりました。ごめんなさい」

「いや・・・いいさ沙貴」

しかし・・・俺は先程の話が気になってしかった。

『全てを支配する力・・・』

力には俺に心当たりがあった。

『極死』・・・全ての存在を支配し消去すら出来る力・・・

だが七夜の業とはどういう意味なのだろうか?

「ねえ志貴、すべて支配する力ってやっぱり志貴の眼じゃないの?」

不意にアルクェイドが言った。

「あ、ああ・・・おそらくな・・・」

それに対して俺は言葉少なくそう言う。

あいつは『直死の魔眼』のことを言ったのだろう。

しかし、まだ・・・『極死』の事は話す事は出来なかった。

「それよりも志貴様そのような格好では風邪を召されます。これを」

と翡翠が替えの服を持ってきてくれた。

「ああ、そうだ。ありがとう翡翠。じゃあ、俺もう休むよ。少し疲れたから」

そう皆に挨拶して服を着ると、俺は静かに自分の部屋に向かった。

内心では不安と得体の知れぬ恐怖、そして公園で見たあの奇怪な人影の事が渦巻いていた。







六日後、有彦から待望の情報が舞い込んできたと、連絡があった。

早速、いつもの所で待ち合わせて話を聞いてみた。

それによると、『今、エジプトのカイロにある美術館である指輪を展示しているが、こいつが持ち主をことごとく不幸のどん底に突き落とす、いわく付きの代物らしい。詳しい事は持ち主が皆死亡しているから不明だが、大抵は気が触れて家族を皆殺しにしたり、近所の住人を虐殺した挙句自殺したって話だ』と言う事と、その美術館の地図、そして、その指輪の写真と詳しい資料を渡された。

その旨を皆に夕食の席で伝える。

「じゃあ次はエジプトに行くの?志貴」

「ああ、これが『凶夜の遺産』であるかは不明だが一応確認はとらないとな」

「それで七夜君、いつ発ちますか?」

「とりあえず準備もあるけど明日には日本を出国したい。沙貴チケットの準備は?」

「はい、既にエコノミーで八人分を」

「ちょっと沙貴!!」

「まあ良いじゃないか秋葉。たまにはエコノミーに座ってみるのも」

「もう、兄さん!遠野家当主たる私が・・・」

そう言い秋葉を宥めて秋葉の苛立ちげな声を聞きながら、俺は別の事を考えていた。

(エジプトか・・・)

その国名を聞き俺は不意に、二年程前の暑い夏の日の出会った少女の事を思い出した。

(元気にしているかな?)

あれから音沙汰無いが、元気でいてほしいものだ。







「鳳明さん聞いての通りです。次はエジプトに向かいます」

「ああ、分かった」

食事も終わり俺は自室で鳳明さんと話し込んでいた。

「しかし・・・遺産も世界中に散らばっていますね」

「確かにそうだな・・・」

そうやってしばらくすると、ノックの音と同時に沙貴が入ってきた。

「ああ、沙貴」

「失礼いたします兄様、ベットを整理させていただきます」

「ああ、頼むよ・・・それと鳳明さん一つお伺いしたい事が・・・」

「何だ?」

「鳳明さんは七夜に伝わる胸に傷跡を持つ赤子の話はご存知ですか?」

「ああ、聞いた事がある。しかし・・・それがどうかしたのか?」

「いえ、その言い伝えが一体何時からあるのかと思いまして」

「俺が子供の時からあった。伝説だと始祖の遺言だとか言ったが・・・すまんこれ以上は思い出せん」

「鳳明さん遂にボケがきたんですか?」

「馬鹿の事を言うな、霊魂がぼけてたまるか」

そう憮然と答えた鳳明さんに俺と沙貴はおかしそうに笑い合った。

結局分からずじまいだったが、その時の俺はさほど気にしていなかった。

翌日、俺達八人はエジプトに向かう飛行機に乗った。

残り四つの『凶夜の遺産』との戦いが再び幕を開けた。







後書き


   今回は、戦闘は完全にお休みして休息の日々を出しました。

   沙貴の屋敷への就職(笑)はいかに自然に志貴と一緒にいられるか?

   それを考えた結果です。

   また有彦の情報屋と言うのは

   『有彦出さないとなぁでもどうしようか・・・』

   と考えていた時に、『そう言えば姉貴は職業不詳だったな・・・だったら弟も』

   と、毎度お馴染みの暴走でこうなりました。

   次回からバトル再会、更に待った方は待ったあの方も登場です。





『夢の章』前編へ                                                                                     中篇へ